オリジナルな狂気(ケーキ)を焼く 〜映画『アダムズ・アップル』が特別な理由〜

《 調理にあたって、下ごしらえ 》 かつてブッダが到達した悟りの境地とはどのようなものであったか。それは例えばひとつを入れたらすべてが出てくる関数が通常の脳の働きに取って代わった状態だと言えよう。われわれは世界の諸相をまずイメージとして捉え、…

天使化する世界に取り残されて ~僕とアーバンギャルド~

今さらアーバンギャルドについて語ることなどあろうか。語ることがたしかにあった世界をうっかり乗り過ごしてしまった今の僕に。だれもがかつてのアーバンギャルドとの出会い、その爆発の長い余波について語っているようにしか見えない。そうすることで初恋…

おもしろきらない美学をどう見る? 〜『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』その他少々〜

タランティーノのダラダラハズし芸は実際のところ「それだから素晴らしい」のか「それなのに許されてる」のかどっちだろう、と考えこむ時両方だとしたり顔の映画秘宝読者の声が聞こえてくるが幻聴だ。レザボアもヘイトフル・エイトも本作も最後気持ちよく発…

立体をからかうアイスピック 〜『ピアッシング』というゲーム  

村上龍の原作小説をアメリカインディー期待の新鋭ニコラス・ペッシェ監督が映画化した。刺したいのか、殺したいのか、アイスピックに取り憑かれた男リードをクリストファー・アボットが、生きたいのか、死にたいのか、ハルシオンの波間に漂う女ジャッキーを…

Oh!透明事件! 〜『名探偵コナン 紺青の拳』を見たゾ〜

あらゆる要求にこたえるのはラクじゃない。原作マンガアニメシリーズ映画スピンオフと、今やコナンコンテンツは様々な層の歴史と愛着が折り重なったミルフィーユだから、万人を満足させようと思うとどうしても錯綜した内容にならざるを得ない。そんなわけで…

たかが真実 〜『アメリカン・アニマルズ』の集合と離散〜

映画『アメリカン・アニマルズ』は2004年にケンタッキー州で起こった実際の盗難事件を題材にしている。博物学の精華として知られるオーデュボンの画集「アメリカの鳥類」時価1200万ドルを盗み出そうとした犯人は、なんと将来を期待される四人の大学生たちだ…

眼刺しのラブレター ~『女王陛下のお気に入り』解体~

どきどきしていた。わくわくしていた。アメリカ版のティーザー動画が上がったのが去年暮れ。『The Favourite』=おきにいり。通常なら“Favorite”と綴るところ、意味深な“u”ひとつ。この綴り方はたしか、古式ゆかしきイギリス英語だ。高校の授業で聞いた記憶…

ヨルゴス・ランティモスと神話的リアリティの地平~作家論に代えて~

先の記事 (しらない恍惚を盗む人〜聖なる鹿殺し、ヨルゴス・ランティモス、神話的境界〜|脱輪 @waganugeru|note(ノート)https://note.mu/waganugeru/n/nb169ebf9568e) では、“神話的境界”というキーワードを軸に『聖なる鹿殺し』の分析を試みた。おさら…

しらない恍惚を盗む人〜聖なる鹿殺し、ヨルゴス・ランティモス、神話的境界〜

聖なる鹿殺し。前作『ロブスター』で未婚者が動物に変えられてしまう寓話世界を描き注目を集めたギリシア出身の監督ヨルゴス・ランティモスによる五つ目の長編作だ。主人公は高名な心臓外科医。眼科医の妻に娘と息子の二人の子供を持ち、庭付きの家で裕福な…

FINAL SPANK HAPPY 〜MINT EXOCIST TOUR〜 at 京都Metro

行ってきた。本当にふざけている。二人がインスタでスタジオライブ配信を行っていて、魂から解放された人間を目のあたりにすると人はこんなにも浄化されるのかーと魂消たものだが、画面を越さず駅をまたいで行ったライブは、ひとつのからだがふたつ並んでい…

pure evil! pure horror! 〜『ハロウィン』讃〜

ただただ強い、ただただ不死身、ただただ人殺し、そしてしゃべらない。一人の人間がただただに至るまでの過程原因情動すべてをすっ飛ばし、膨大な計算の果てに取り出された悪意の公式のみを呈示するシンプルさによって、ジョン・カーペンターの『ハロウィン…

脱輪が選ぶロック名盤100

1 ガセネタ/Sooner or Laterやはりここからはじめなければならない。はじめたとたんにおわってる。ロックは誕生後10年で可能性のすべてを爆発させ、以降はその長い長い余波が続いているだけ、というテーゼが高速のやけくそで垂れ流される。 2 サカナクショ…

触れられる火は消えた光 〜『鬼火』を見て〜

達成感なんているかそんなもの俺は死んだら完成なんだーーSyrup16g『実弾 Nothing's gonna syrup us now』当たり前のことを研究するのはちっとも当たり前ではない。カナダの西洋古典学者ピーター・トゥーヒーの『退屈 息もつかせぬその歴史』(青土社,2011)は…

人間がほどけてゆく記録 〜『マックイーン:モードの反逆児』に寄せて〜

だいたいほとんどの人は服を着たり脱いだりする。不思議だ。服が人間を着たり脱いだりしてるのではないか、と思うこともある。外に出る、というのは大変な冒険で、裸のままでは出られない。体に服を着せ、心に感情を纏って、行く。行ったら帰ってくるのがふ…

映画『ミツバチのささやき』評 ~ユウワクするむこうがわ~

みなみ会館で『ミツバチのささやき』見てきた。みなみ会館、ミツバチのささやき、といえばささやかな因縁があり、その昔ご好意でチケットを譲っていただき、調子に乗って遊び倒して見に行ったら、冒頭からきれいに寝たという(笑) 後にも先にもあれほど極楽…

映画『ブレードランナー2049』評 ~未来は、さみしい~

ブレードランナー2049見てきた。まだ全然消化できてないので、反芻する。マフラー姿の女の子かわいいなあ。 ブレードランナー:ニューファッションとしての未来。狂躁的かつ強迫神経症的。絶えず4種類ほどの音が鳴っており、「なんか変なのが〜」という日本語…

脱輪2nd album『エルンスト・カッシーラーのサウンドトラック』詳細

12月25日クリスマスに僕の2nd album『エルンスト・カッシーラーのサウンドトラック』がリリースされます。ようやく・・・というのが正直な気持ち。このアルバム、作り始めたのは今年の4月なのですが、大変な難産でして、制作上のストレスからついつい別作品…

脱輪4th album『bath』詳細

昨日10月1日に僕の4th album『bath』がリリースされました。リングベルの音色と浴室をテーマにした60分を超えるコンセプトアルバムで、睡眠、瞑想、覚醒にもってこいの音響作品に仕上がっています。作業や読書のお供にも最適かと。限定100部生産シリアルナン…

全楽曲解説! ~脱輪1stインタビュー~

※脱輪待望の最新曲『波打つ』はこちら! https://youtu.be/9Y1Lqr-kC_Q ーどうも。 ういっす。 ー早速いろいろ聞いていきたいんですが。 はい。 ー曲を作り始めたのはいつですか? 三ヶ月前ぐらいですかね。 ーなにかきっかけがあったんですか? 速いからで…

嵐山

ほんとに死ぬっ!と叫んだ女の子の家は嵐山にあって、電車に乗って。急いだ。街並みは昼間と打って変わって、夜だ。ホリーズカフェ四条室町店には喫煙席がある。腰かける。隣にその子がいて、ぱかーん。頭が開いた。中にはたっぷり詰まってる。思い出、とい…

穴りしす・バンジャマン・ペレ~『サン=ジェルマン大通り一二五番地で』を読む~

いったい、くぼみは自らの深さにどれほど頭を悩ませれば穴になれるのだろう? その穴から出ることなくしてあの穴に入ることはできない。あるひとつの穴はいまひとつの穴から這い出る努力を要求する代わり、受け入れに際しては労を取らせない。勇を奮って飛び…

風邪座りぬ

風立ちぬ1 - だいなしのてんさいhttp://dainasigenius.hatenablog.com/entry/2013/09/05/051301の壁を超え、風立ちぬ2 あなたへの質問 - だいなしのてんさいhttp://dainasigenius.hatenablog.com/entry/2013/09/05/055009の網をくぐり抜け、すべてはまった…

汗と光

いろいろあって今ここ、をいろいろあった原因の結果として見る時に、今ここを巡るあり得た可能性が実際のそれとさほど変わりない場合、いろいろのひとつひとつを改竄しはじめることは罪だろうか。セブンイレブンで買ったおにぎりをローソンで買ったことにす…

オノヨーコの銀河系

オノヨーコの声は別の言語で織られた賛美歌。あのように僕は書きたい。音楽が羨ましい。音楽は自由だもの。僕はだけど、言葉で音楽したいから。だれもがオノヨーコを知っていて、だれもオノヨーコを知らない。いったい、ボーカリスト・オノヨーコとどれだけ…

「男女の友情は成立するのか」問題に今年中に決着をつけるから、2014年以降、この話題はなしの方向で

男と女の間に友情なんか成立しない、とだれかが言う時、彼は二つの経歴を見せびらかしたがっている。一つは、女性経験が豊富であること。いま一つは、その経験の多くを成功に導いてきたということ。前者については説明するまでもないだろう。考察を要するの…

関西弁

いいねを関西弁にするとええやん、だから、Eカップの女の子が関西に来るとAカップになってしまう。ご愁傷様。EカップAカップどちらが好みか聞かれても、Eの方がええやん、Aの方がいいかな、ややこしい。ここはみんな平等にCカップにしてしまえば安心…

美しくうなだれるガラス

ガラス越しにあなたを見る逆さまのあなたが常態となる屈折角をガラス越しにあなたが見る逆さまのわたしに当てはめてみてもドーナツを食べるようにはドーナツの穴を食べられないうらみをドーナツの甘味によって紛らわしながらわたしはドーナツの穴がドーナツ…

恋するフォーチュンクッキーと指原莉乃(以外のいろいろ)論

「さむいね」「さむいのどこだろうね」「はらじゃないかね」「はらとったらいたいだろうね」「こないださ、バカなヒョーロンカが書いてたの」「えーけー」「びー」「恋するフォーチュンクッキー」「いい曲だよね。70年代のディスコサウンドで。踊りも」「だ…

彼女日記2

・某日わたしはおかしいのかもしれない。彼女をときどき、とんでもなくひどい目に合わせたくなる。もし目の前で他の男に犯されても、好きなままでいられるだろうか。考える。・某日ひさしぶりに映画を見た。『米屋の歴史』というドキュメンタリー。「人類開…

彼女日記1

・某日おおきなものが蛇口と間違えてわたしをまわす。苦しくなって水を飲む。上から飲んでも下から読んでも水道水。わたしは溢れてとまらなくなった。・某日今日は一日、「自分とどこまで抱き合えるか」というテーマに取り組んでいた。まず手を繋ぐ。社会的…