読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

うっとりちゃんとエクスタシーくん

昔々あるところにうっとりちゃんとエクスタシーくんという兄妹がいました。二人はなかよくベッドの上で生まれたのですが、いつもケンカばかりしていました。それというのも、うっとりちゃんが広がろうとすると、エクスタシーくんは縮もうとするからです。
ある日、学校で算数の授業を受けている時、うっとりちゃんがエクスタシーくんに耳うちしました。「ねえエクスタシー、先生が言ってる面って、素敵だと思わない?あんなふうにあたし、なれたらなあ」ちょっぴり怒りぎみに、エクスタシーくんが答えます。「ちっともいいと思わないな。ぼくは、あの点ってやつになりたいよ」
またある夜、空を眺めながら、うっとりちゃんは言いました。「聞いて、あたし宇宙になりたい!いっぱいいっぱいおおきくなって、あなたをつつむの」エクスタシーくんは笑って「ばかだなあうっとりは。おおきくなるのなんてキリがないよ。それよりぼくは星になって、ピカピカ光ったら消えたいね」
こんなふうに、うっとりちゃんとエクスタシーくんの意見はいつもそっぽを向くのでした。とはいっても二人がケンカするのは夜だけで、昼間はわりあいなかよくやっていたのです。
例えば、こんなことがありました。テレくさそうにエクスタシーくん「このあいだはごめんよ、うっとり。君の言う面は好きになれないけど、線ってやつなら悪くない気がするよ」「あら、あたしだって線になってぐんぐん伸びるの、きもちいいと思うわ。あなたの好きな点だけは、ゾッとしないけれど」
こんなこともありました。ぽろぽろ涙を流しながらうっとりちゃん「考えたんだけどね、エクスタシー。やっぱりあなたの言うとおり、宇宙になるのはむずかしいと思うの。空ぐらいになら、なれる気がするんだけど」「空ならかんたんさ、ただぼーっとしてればいいんだから。さあうっとり、泣くのはおよし」
ケンカばかりしていても、二人はおたがいを思いやる心を忘れたわけではなかったのです。ところがある夜、兄妹はたいへんな大ゲンカをしてしまいました。いったいどうしたのでしょう?
いつものように二人で夜空を見上げていた時、エクスタシーくんが言いました。「なあうっとり、君が空になったら、たくさん雨を降らせてくれよな」うっとりちゃんを喜ばせようと思って、エクスタシーくんはそう言ったのですが、これがケンカのもとになってしまったのです。
「なんですって?雨を降らせろですって!あんなもの、ちっとも素敵だと思わないわ!」「どうしてさ、かっこいいじゃないか。雨ってのはほら、いっぱいの点だろ?ずーっと見てると、線にだってなるよ」「そうかもしれないわ。だけど、雨はけっして面にはならないのよ。あんなものをたくさん降らせるなんて、きもちわるいったらありゃしない!」「そいつはおかしいよ、うっとり。点は嫌いでも線なら好きだって、この前言ってたじゃないか。どうして面にこだわるんだい?」「こだわってるのはあなたの方よ!おぼえてない?あたしが空になりたいって言った時、あなたこう言ったのよ。なれるさ、空はただぼーっとしてればいいんだからって。あの時あたし、うれしかったの。なんにも考えないできもちよくなっていいんだって。それなのに、どうしてあたしをそっとしといてくれないの?」「ちょっと待てよ。そりゃ、ぼーっとしてるのだってたまにはいいだろうさ。だけど、おんなじことばっかりじゃつまらないじゃないか」「おんなじことですって?あたしは空になって、いろんなかたちに変わるのよ。ずーっとずーっと、広がり続けるの。それのどこがおんなじなのよ!」「ずーっとずーっとって、わからないな。ずーっとずーっとなんて、ぼくにはできない気がするよ」「そらごらんなさい!あなたが雨を降らせろなんて言うのは、あたしが広がり続けるのにガマンできなくて、今にもやめさせたくて、そう言うのよ。あなたにはできなくてもあたしにはできるってことが、まるで想像できないのね。おばかさん!」「たのむから機嫌をなおしてくれよ、かわいいうっとり。そう言われてもぼくにはわからない。広がり続けるなんてムリだし、それに意味がないよ。雨を降らせる方がよっぽど意味があるし、素敵じゃないか。どうしてわかってくれないんだい?」「わかってたまるもんですか!もう、エクスタシーなんか知らない!」
こうして二人は絶交してしまったのです。
翌朝目覚めると、エクスタシーくんのベッドに小さな海ができていました。おかしいなあ、おねしょはとっくに卒業したはずなのに。エクスタシーくんは不思議に思いましたが、となりでくすくす笑っているうっとりちゃんに気づくと、急いでシーツを隠してしまいました。「そら見ろ、雨だって面になるじゃないか・・・」
それからというもの、うっとりちゃんは波のように広がり、エクスタシーくんはトガって消えました。二人は自分のことをきもちいいと思い、相手のことをきもちわるいと思いました。
しかしそれも最初のうちだけで、しばらくするとまたなかよくやれるようになったのです。昼間にはぐっと笑いが増え、おしゃべりが減りました。ふとした瞬間、昔を思い出すことだってありました。
『線ってやつなら悪くないと、ぼく思うな』『あたし、線みたいにぐんぐん伸びるの、きもちいいと思う!』『空になれるかしら?』『なれるよ、きっと』
かつてのこんなおしゃべりが頭に浮かんでくる時、二人はなにか大切なものを学校に置き忘れてきてしまったような、落ちつかない気分になるのでした。
それから長い時が過ぎ、二人は大人になりました。うっとりちゃんはお金持ちの○○さんと結婚し、幸せに暮らしました。エクスタシーくんは××ちゃんや△△さんに恋したあと、ちいさな会社の社長さんになりました。
ある夜、二人はベッドの上で事故に遭い、なかよく死んでしまいましたとさ。




おしまい





〈『うっとりちゃんとエクスタシーくん』を読んでくれたきみへ〉 

・うっとりちゃんはなぜ広がり続けたかったのでしょう?
・エクスタシーくんはなぜ縮んだりトガったりしたかったのでしょう?
・二人はどうしておたがいのことがわからなかったのでしょう?
・○○、××、△△に当てはまる言葉とはどんなものでしょう?
・二人が死んでしまった「ベッドの上で起こる事故」とはいったいなんでしょう?
・二人はしあわせだったでしょうか?