おもしろきらない美学をどう見る? 〜『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』その他少々〜

タランティーノのダラダラハズし芸は実際のところ「それだから素晴らしい」のか「それなのに許されてる」のかどっちだろう、と考えこむ時両方だとしたり顔の映画秘宝読者の声が聞こえてくるが幻聴だ。レザボアもヘイトフル・エイトも本作も最後気持ちよく発射するために2時間ジラされるわけでよっぽどのマゾでもない限り、映画に限らずなにかのマニアはマゾ傾向の天井しらずを知らず自慢するものだが、それってどうよ!?
ごたくやかっこつけはいいから胸に手を当ててよく考えてごらん。
タランティーノってそんなにいいか?”


銃口を突きつける男たち、バカンバカン派手に撃ち合う『レザボア・ドッグス』の有名シーンは『レポ・マン』の借用だとしてもたしかにかっこいい。でもなー。そのかっこよさもみんなが言うほどかっこいいとは思えない。タランティーノの代名詞たる意味深に見せて無意味なダラダラ会話はハードボイルドやノワール小説の伝統に根差した発明と言っていいと思うし、このジャンルを知り尽くしたオタク監督ならではのパロディや盛り上がりそうな展開を常道からハズすやり口はオシャレかもしれない。総じて「おもしろきらない」状態を保つのがタランティーノの美学。これって謎かけみたいなもん、映画が「おもしろきらない」状態にコントロールされていることに気付いたマニアたちは「おもしろきらない状態をおもしろがる」態度がツウだと言い出し、タランティーノコンテンツの日本での需要の不思議は避けて通れないから言っておくと、どう考えてもタラちゃんの映画はマニア向けでめざましテレビでダンシングレオ様を見てカップルで馳せ参じるような代物じゃないのに巨匠キャラ扱いされてる謎は、インディーオタク監督なのにハリウッドで活躍できている矛盾(統合失調間違いなしのデヴィッド・リンチがハリウッドから追放されないバランスに似て)とそれなりに符号するにしろ、エンタメとしてもデートムーヴィーとしてもハナから作られちゃいないことはやはり何度でも確認しておかなければならず、観賞に際して「おもしろきらない状態をおもしろがる」精神と最後の爆発まで我慢を続けるマゾ根性が必要となるのは基礎教養、ここまでは別にいいのだが
ひょっとして、
おもしろきらないものはおもしろくないのではないか……と疑う勢力も当初からひそかに存在していたはずで、その人口が一気に拡大したのが前作『ヘイトフル・エイト』ではないだろうか。
かく言う僕も、これで目が覚めた。ゲロ吐くほどおもんない。ひたすら長尺な上になんのひねりもなく、こんだけ待たせたんだからラストにはデス・プルーフみたいな爆笑カタルシス来るんですよねーわかってますよーとヨダレ垂らしてたらスカ、最後まで大ハズレ。なんじゃこりゃ。で思った。
ひょっとして、
①おもしろきらないものはおもしろくない
②おもしろきらないものはおもしろいとは言えない
③おもしろきらないものはおもしろきらない
ひどく冷静になり三つ目。タランティーノはだから、過大評価だ。ダメとかフェイクとかじゃなく、単純に評価と実質が乖離している。


おもしろきらないように作られたものはおもしろきらない。考えてみれば当たり前のこと。タランティーノよりおもしろい映画やかっこいい映画はいくらでもある。
とはいえ……『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』。
いつも通りのダラダラっぷり、妙に思わせぶりでなんか起こりそうな雰囲気を醸し出しときながらとことんハズし、いいかげん飽きたわ、大学生らしきライト層の途中退出も多く、マニアはロマン・ポランスキーが出てきた時点でハハァ、するってえと隣に乗ってるのはシャロン・テートこっからチャールズ・マンソン出てきてあの事件がクライマックスに来るわけか、さあタラちゃんは陰惨極まりないモチーフをどう料理するのかなーとジリジリしてるってのに、さんざんスカされた挙句最後は空間的にちょっとズレたIFの世界で大爆発!これはなかなか笑えたけど、やっぱなー。この一事をもってして2時間半の脱力を許すのはいくらなんでも甘やかしすぎじゃあないか。
いわゆるシャロン・テート事件を予め知っとかないとラストの襲撃が意味不明だしなによりそれが「ズラされた」展開である妙を楽しめない。上映後見渡せば、周囲はどことなくどっちらけにポカーン。だから華やかなマスコミ宣伝とB級に徹した実質のギャップだと言うんで、当然といえば当然。しかしこれ、アメリカじゃだれでも知ってる話なのかね。


おもしろくなくはないが甘やかしの過大評価で済むかといえば、今回、いいところがいっぱいあるのだ!
ひたすら強くイイやつなブラピがいい。浮き沈み激しいけどキュートで憎めないレオ様がいい。男同士の関係を描くのが上手い人だったなあ、そういや。派手さはないけど『12モンキーズ』や『ファイトクラブ』を超える過去最高のブラピ。
60sフラワームーブメントとハリウッド冬の時代を鮮やかに切り取る演出や舞台セットが素晴らしい。そう、タランティーノってどこか上品なところがあって、大げさにならない誠実な描きぶりがグー。あのチャールズ・マンソンがたった一度しか登場しないなんて!こういう品の良さが愛され続ける所以だろう。
半分もわかんないけど例によってオタクなウエスタンや過去作オマージュ全開。そもそも映画の映画なもんで、思う存分やらかしてるご様子。
あと一番重要なのは、血まみれの殺傷事件が一戸ズレただけで血まみれのまま陰惨から爆笑にすり替わるファンタスティックな歴史改変は映画メディアが持つ素晴らしき暴力性であり、逆用可能な危うさを孕んでいること。



結論。それだから/それなのにそこそこ満足!なのだが、いくらなんでも退屈は退屈だよなー、そこをごまかしちゃいけない気もしたり。
キャリア初期から「10作しか撮らない」と宣言していたタランティーノの9作目。もうこれでやめちゃおっかな、なんて嘯いてるらしいが、やはりラストは気になる。有終の美を飾ってほしいものだ。