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南拓海捜索願

先日、フリーマーケットをぶらついておりましたら、『栄光のグループサウンズ特集』なるCDを発見しまして、こいつあいただきとばかり手に取りましたらば、出店主のおじさまいわく、「あーそれね、本人歌唱じゃないんですよ」
はあ?本人じゃないって、本人じゃなければだれが歌ってるのん?と見れば、ジャケット裏に小さく


唄・演奏:南拓海&ザ・ジョナサンズ


だれ!?
南拓海ってだれ?ザ・ジョナサンズって何者?


混乱する僕を見かねてか、「僕もだまされてん・・・」と同病相哀れむおじさま。「買ってから気いついてん、本人ちゃうってこと」
楽しいはずのフリーマーケットがたちまちお通夜の席に。
「それはそれはご愁傷様でした・・・。しかし、このジョナサンズってのはなんです?ファミレスですか?」
「わからん」
「ふうむ。中身はどんなもんざんしょ?」
「それが、ショックのあまり聴いてへんねん。ごらんの通り新品やし、3枚100円でどう?」


『栄光のグループサウンズ特集』vol.1、2、3。収録内容はワイルドワンズ、ヴィレッジ・シンガース、スパイダースなど、GSを代表するグループばかり。おまけに新品未開封。これで100円とは誠に申し分ない条件だ。たった一点、歌っているのが南拓海、演奏がザ・ジョナサンズであることを除いては。
しかし、かくのごとき代物はだれかが供養せねばならないのである。さもなくば、南拓海の怨念はビニールに封じ込められたまま成長し続け、あわれ成仏できない霊はベッドにたたずみこう囁くのだ。
「あまいろのながいかみをかぜがやさしくつつむ・・・」
ひいいっ!勝手に殺してごめんなさいっ!




というわけで買った。
「おおきに!」
ブツを手渡すおじさまの表情は、五月晴れの空のごとく爽やかだったという。
一方、帰宅するや貧乏神をなすりつけられたような気分に襲われはじめる僕。いけない、しっかりしろ、この俺こそ南拓海の霊を祓う者なのだ!俺がやらずにだれがやる!
熱い思いが冷めないうちに、ビニール包装解除。ジャケット左端に付いている帯が糊付けされている珍しい仕様だ。と思いきや、帯はあっさり剥がれた。糊付けが甘かったのである。このようなアルバム周辺の仕事ぶりからも内容が知れようというものだが、果たして。
座を正し深呼吸するや、カッと目を見開き、僕は再生ボタンを押した!


一曲目、ワイルドワンズ「想い出の渚」
言わずと知れたGSを代表する名曲である。ザ・ジョナサンズの演奏とともに、南拓海の歌声がスピーカーから流れ出す。なんとなく髭をたくわえたナイスミドルの姿を想像していた僕は、その若い声質に驚かされた。30代前半か、下手すれば20代ではないか。企画盤とはいえ、その若さでGSをカバーしようという意気込みやよし。
しかし肝心の歌の方はというと、これが実にへたなのである。なるほどGSの特徴をなす哀愁を帯びた歌唱ではあるが、声にちっとも深みがない。
そんな南氏の歌声に寄り添うザ・ジョナサンズは、まあ聴けない演奏ではない。問題があるとすれば、覇気というものが微塵も感じられない点だろうか。
思うに、ジョナサンズはどこかのバーで定期的に演奏しているおじさま集団なのではないか?どこの馬の骨とも知れん若造のバックをつとめるのは癪だが、とりあえず演奏すれば金が入る!と言わんばかり、無気力がほとばしっているのだ。


ディスクをvol.2に移し替え、大好きなモップス「朝まで待てない」を聴いてみる。
鈴木ヒロミツケレン味溢れる歌唱とは程遠い、妖怪ぬりかべのごときのっぺりした南拓海の歌声。星勝の悶絶ギターの代わりに響くのは、枯れ木のようなギターサウンド・・・


ひどい!ひどすぎる!これじゃまるで昭和枯れすすきじゃないか!朝までどころか、一晩だって待てそうにない!
しばらくはへらへら笑いながら聴いていた僕も、曲が進むにつれ憎くなってきた。ちくしょう、GSを冒涜する南め、許すまじ!つーかだれだよてめえ、どこ中だよ!



怒りにまかせて調べてみた。
『南拓海&ザ・ジョナサンズ』。ヒットゼロ。なにいいいいいいいいいいい!!!
平気で情報操作なんかやっちゃう現代のナチ、グーグルの力を使っても詳細不明とは・・・南拓海&ザ・ジョナサンズ、恐るべし。
めげずに『南拓海』で検索。出てきた出てきた・・・なになに、3年2組の南さん、マラソンレコードを保持する南さん、水商売で荒稼ぎする南さんって、肝心のあいつが出てこねえ!
最後に『ザ・ジョナサンズ』。ようやくそれらしきバンドのブログがヒットする。ほうほう、ザ・ジョナサンズは本気です、本気でパンクやってます・・・って、ちがーう!!




バンドクレジットからの捜索を諦めた僕は、発売元から調査を進めることにした。
『栄光のグループサウンズ特集』で検索してみたところ、予想外の件数がヒット。だが、なにかがおかしい。よく見るとヒットしているのは『栄光のグループサウンズ“大”特集』で、発売元は大手コロンビア。『栄光のグループサウンズ特集』についてのヒットは一件もない。
大手レコード会社発のアルバムとたった一字違いのタイトルを冠されたCD。いよいよ話がきな臭くなってきたところで、最終手段、発売元のSeagull Projectを調べてみる。当然のごとく、ヒットゼロ。ジャケットにMegro, Japanと表記されているからには東京は目黒にあるのだろうが、そこから先は薮の中だ。




ふうむ。
ようやくこの奇妙なCDの正体が見えてきた。
本盤はおそらく団塊の世代を当て込んで製作されたものなのだろう。吹けば飛ぶよな弱小レーベルが一念発起、どうにか楽曲使用の許諾を得たものの、個々の著作権上の問題をクリアするのが面倒になったに違いない。一同が頭を悩ませる中、だれかがこう叫んだのだ。
JASRACがうるさいなら、別のやつに歌わせればいい!」
むちゃくちゃな思いつきだが、こうした次第で南拓海&ザ・ジョナサンズの出番と相成ったのだろう。
さらに邪推するに、この弱小レコード会社の企画は、大手コロンビアよりほんのちょっと早かったのではないか?だからこそコロンビアは自らの矜持を示すため、『栄光のグループサウンズ特集』にわざわざ“大”と付け加えたのだ。どこぞの弱小と一緒にしてもらっちゃ困る、うちの方こそ本物なんだぞ、と。
本盤にはクレジットがないため発売日が分からず、これ以上検証を深められないことが残念だ。




というわけで、『栄光のグループサウンズ特集』及び南拓海&ザ・ジョナサンズについての情報をお持ちの方は、ぜひ脱輪までご一報ください。
つーか、これだけ名前を連呼したら本人からアクセスがあってもよさそうなもの。その際、「ち、違うんだ!わたしも被害者なんだ!」という言い訳を楽しみにしていますよ、南さん。