全楽曲解説! ~脱輪1stインタビュー~

※脱輪待望の最新曲『波打つ』はこちら!
 
 
 

ーどうも。

ういっす。
ー早速いろいろ聞いていきたいんですが。
はい。
ー曲を作り始めたのはいつですか?
三ヶ月前ぐらいですかね。
ーなにかきっかけがあったんですか?
速いからです、スピードが。もともと文章を書いてるんですが、だれも読んでくれなくて。曲作った!聴いて!って言うとわりとみんな聴いてくれるんで。これは使えるなと(笑)あと、文章を書くのはつらくて苦しいし、なかなか完成しない。曲の形だったらすぐ作れるんで。
ー楽曲は、あくまで言葉を伝えるためのツール?
そうですね。音楽は大好きですけどまったくの素人ですし、なんか失礼な気がして。聴いてもらうために、音楽作ってます!って言い方はするけど、自分の中ではそういう気持ちはないです。
ーラップを始めたのはもう少し前ですか?
いや、同じぐらいですね。作ったもんを時系列で聴いてもらえればわかるんですけど、まず他人様の作ったトラックにラップや朗読を載せる形でスタートして、それからサンプリングをやめて自然音だけで曲作ったり、ラップも曲も自分で作ったり。やっぱり言葉なんでしょうね。
ーどうして、言葉なんでしょう?
他になにもないからです。このインタビューだって、言葉がなければ存在してないわけですから。本当はあなたもわたしもいない。でも逆に言えば、言葉さえあれば全部がそこに生きはじめてしまうわけです。無理やり存在してしまうあつかましいもの。
ーあつかましい?
そうでしょう。言葉が本質的にあつかましいものだって前提を忘れた作品なんてみんなゴミですよ。そんなんばっかですけど。最近話題の◯◯とか××だって・・・
ーあの、そろそろ具体的な作品について伺っていきたいんですが。
どうぞ。
ー朗読の作品がありますよね?
はい。
ー先ほどの話だと、曲は自分で作ったものではない?
トラックは人のをそのまま使ったり、いろいろ加工して使ったりしてます。『gogonoyuurei』は田村晴樹さんっていう、絶対だれも知らないですけど70年代後半に第五列っておもしろいグループがあって、その一員だった人の、たぶん唯一の発表曲をそのまま使わせてもらいました。『マールの耳』は、blondesっていうドイツかどっかで少し前にデビューしたテクノデュオの曲を、テンポ落としてちょっとエコーかけたんだったかな?そんな感じで使いました。こいつらは音がめちゃくちゃ凝ってるんですよ。
ー『おえっこ倶楽部』は?
あれは半分ボツなんで(笑)鼓童っていう世界中で活躍してる和太鼓のグループですけど、その曲を気持ち悪いリズムに変えて使いました。
ー歌詞はどうやって考えるんですか?
考えるというか、もともとあったものなんで。
ーもともとあった?
『マールの耳』は、僕が19歳の時に書いた『耳』っていうタイトルの散文をそのまま読み上げてるんです。あの頃はこういうのがいくらでも書けたんですよ!うらやましい限りです。で、『gogonoyuurei』は3年前ぐらいに書いた詩で、『おえっこ倶楽部』は6年前に書いた小説。朗読じゃないですけど、『さよなら、エンジェル』も昔書いたアイドル/AV女優に関する考察を、こちらはラップ用に手直ししたものです。
ーなるほど。音楽は言葉を伝えるための手段、とおっしゃった意味が少しわかってきました。逆に、新しく書き下ろした歌詞はありますか?
『アリスの耳(不思議の国のアリス第四章ラップ)』がそうですね。そもそもこれを作る目的ですべてが始まったので。
ーなぜアリスだったのでしょう?
う〜ん。話せば長くなるんですが、アリス物語の凶暴な楽しさに惹かれるんですね。ルイス・キャロルという人に寄せる共感も大きいです。で、キャロル関係の本を読んだりアリスを原文で読んだりしてるうちに、批評的な観点から見て、これはまだだれも指摘してないぞ!という切り口が見つかりまして。最初は文章で書こうと思ったんですが、待てよ、ラップにしてみたらおもしろいんじゃないかと(笑)
ーいきなりラップ(笑)
まあ、韻もあんまり踏んでないし、正確にはポエトリーリーディングならぬクリティックリーディングとでも呼ぶべき代物でしょうけど。
ーラップにはもともと興味があったんですか?
高校時代からヒップホップは大好きでよく聴いてたんですが、自分でやることはあんまり考えてなかったですね。友達とカラオケ行った時にその友達がいきなりフリースタイルを始めて、それに触発されたのもあります。
ーもしかして、その時のフリースタイルが『RF5』なんですか?
あれはまた別の友達で、カラオケでやったフリースタイルバトルを編集したものですね。トラックは高校の夏休みに毎日聴いてたNitro Microphone Undergroundです。
ー脱輪さんはバトルではわりと正統派のスタイルですけど、お相手のラップはちょっとすごいですね。
すごいでしょ!彼は天才ですよ。あんなラップ聴いたことない。ヒップホップにまるで興味ない人間に無理やりやらせるフリースタイルには大きな可能性を感じます。やらされる方は迷惑でしょうけど(笑)
ノベルティーソングというか、似たような感じで『Rescue Me』というのもありますが、これはEvery Little Thingのカバーですよね?
はい。
ーちょっと脱輪さんのイメージから遠いんですが、なぜELTを?
大好きだからです。特にこの曲を歌ってる時のもっちーが最高で!2002年のツアー映像ですね。
ーこれは、自分で作ったんですよね?
そうです。シャバダバ言ってシンセのメロ真似して、机とコップをペンで叩いて2種類ドラム撮って、最後に歌載せたのにリバーブかけまくって、全体をテンポアップ、はい完成!30分くらいでできました。
ー続いてインスト曲について教えてください。
はい。『White Rabbit & Golden Key』は、一番気に入っている曲なんですが、4つの音源をばらばらに組み合わせて作ってます。フランスのゴンザレスのソロピアノ、不思議の国のアリスの朗読CD、美少女ゲームのドラマCD、それからシャカゾンビのTsucchieのトラック集。この頃フランスのトイミュージックアーティストKlimpereiのライブに行ったのもあって、Klimpereiっぽい雰囲気を目指しました。結果的にかわいらしくストレンジな曲になったので、成功ですね。
ー『飛ぶ夢をしばらく見ない』は、反対にダークで冷たいテクノですが。
これは一日レコーダー回しっぱなしにしたまま散歩して、採取した音をこねくり回して作りました。最初はなかなか曲にならなくて、苦労しましたね。完全に自然音だけで作ってる人って、世界中でたぶんだれもいないんですよ。どうしてもギターやビートを足しちゃう。やってみて理由がわかりましたね。人がなにかを聴いて“これは曲だ。音楽だ”って認識するためには、ある程度の型が必要になってくる。
ーでも、脱輪さんは自然音だけで作ったんですよね?
作りましたとも!もちろん加工はしてますが、プリセットの音はいっさい入れてません!
ーがんばりましたね。予告では、この曲を収録した2nd albumを製作中とのことですが?
絶賛頓挫中です(笑)30分ぐらいまでは作ったんですが、納得いかなくて。ただそこでできた素材だけはあるので、『エルンスト・カッシーラーのサウンドトラック』というアルバムタイトルともども、どこかで生かしたいとは思ってます。
ーそのエルンスト・カッシーラーという名前も含め、脱輪さんの曲には難しい言葉がいろいろ出てきますが、ここらでちょっと解説をお願いできませんか?
ググレカス!ってのもあながち冗談じゃなくて、昨今では知らない言葉を検索する喜びもあると思うので、気になったらぜひ調べてほしいというのが本音です。とはいえせっかくですから、ひとつだけ種明かししておきましょうか。『マールの耳』ですが、サムネイルはドラ・マールという女性。ピカソの数多くいた愛人の一人で、シュルレアリスムの写真家でもあった人です。彼女に貝殻を撮った不思議な写真があって、その実物を見れば『マールの耳』の“ぼく”の正体がわかるかもしれません。
ーそんな深い意味が!気になりますね。
『マールの耳』だけじゃなくどの作品にも、サムネイルの画像含め、二重三重の意味が仕掛けてあるので、謎解きの快楽を味わってみるのも一興かと思いますよ。
ーでは、いよいよヒップホップ楽曲について聞いていきます。
うっす。
ーまず、『さよなら、エンジェル』ですが、2バージョンありますよね?
はい。最初がプレーンバージョンで、デイヴ・ブルーベックの代表曲の、フィロ・マシャドによるスキャットカバー『Take Five』を編集して使ってます。で、勝手にマシャドとフィーチャリングしてることにして(笑)
ー聖三位一体バージョンの方はもっと凝ってますね。
そうですね。これは、さっき言ったフィロ・マシャドの『Take Five』、UAベンジーが昔やってたバンドAJICOの『Take Five』、それから両方のカバー元であるデイヴ・ブルーベック・カルテットの『Take Five』の三つを組み合わせてるんです。だから聖三位一体(笑)他にもマイルス使ったりしてますよ。
ーマイルスって、あのマイルス・デイビス
そう。最初の、バーン!っオルガンの音。『doo-wop』ってアルバムの曲で、ジャズの帝王マイルスがヒップホップに挑戦した作品なんで、敬意を込めてのサンプリングです。ちなみにこの曲、バラエティー番組の帰れま10でも5秒ほど使われてますよ。プロデューサーがマイルス好きなのかな。
ーサムネイルの画像はなんですか?
『聖セバスティアヌスの殉教』。キリスト教絵画の重要モチーフのひとつですね。聖三位一体と掛けてもいるわけですが、なぜこのモチーフなのかはググレカス
ーありがとうございました。では、新曲の『波打つ』についてお話を聞かせてください。
えーっと、今ちょっと事情があって精神分析関係の本をいろいろ読んでまして、詩はその過程で生まれました。曲はケータイの無料アプリで作って、それを右手で演奏しながらラップしたのをICレコーダーで録音、パソコンのこれまた無料ソフトで編集して完成、ってな具合です。
ーえーっ!曲とラップは別録りじゃないんですか?
別じゃないですね。雑音が入らないようトイレに篭って、スマホで演奏しながらラップしたのを一発録り。だから、ガチのライブレコーディングなんです(笑)
ーどうしてまたそんな大変な真似を・・・
他に方法がないからですよ!いや、あるに決まってるんですけど。お金出してソフトダウンロードしたり機材買ったりしたら、もっと楽にはいくらでもできるんでしょうけど、タダでどこまでおもしろいものを作れるか?ってテーマにこだわってるところもあるので。だから音楽制作には今のところ1円もかけてません!(笑)
ーそりゃまた凄まじい・・・
逆に、書きものには死ぬほど投資してますけどね。既に一生かかっても読み切れない量が部屋にあるのに、アホみたいに本買ったり。まあ、機材も今後は買うかもしれませんが。録音環境が作品の出来を大きく左右することは『波打つ』製作に当たってほとほと身にしみたところなので。実際、僕の頭の中にある『波打つ』はこの1000倍はヤバイ作品なんですよ!そこはめちゃくちゃ悔しいですね。いつか録り直したいです。
ーなるほど。最後に、今後の予定や展望などあれば。
2nd album『エルンスト・カッシーラーのサウンドトラック』は、やはりなんらかの形で完成させたいですね。3rd album『VS アフロディテ』ってのもアイデアだけはあって、女性アーティストの歌モノカバー集になる予定です。今の手持ちじゃとても無理ですが、もし実現したら『Rescue Me』も収録します。あの曲はボサノヴァ・パンクっていう存在しないジャンルを念頭に置いて作ったんですが、そういう意表を突くカバーをやりたいですね。あとは、とにかく明るく楽しくポップなラップチューンを作りたいです!とびっきり俗っぽいやつ。いつも暗いとか怖いとか言われてしまうので(笑)
ー楽しみに待ってます。今日はありがとうございました!
これからも変なものおもしろいもの新しいもの気持ちわるいものまだだれも見たことないものをがんがん作っていくからな!覚悟してやがれ!ありがとうございました。